小児リハビリテーションの立場から(理事:荒井洋 社会医療法人大道会ボバース記念病院)

※当法人の活動をより多くの方に知っていただくため、会員数の状況を踏まえ、当面の間、本ブログは一般公開としております。

私は、本学会の理事とともに、NPO法人日本脳性麻痺・発達医学会の理事長も務めています。また、院長をしているボバース記念病院は小児期から青年期に発症した運動障がいを持つ方々へのリハビリテーションに特化した施設です。
そのような立場から、リハビリテーションの考え方についてお伝えします。

リハビリテーションは運動機能を向上させるもの、と思っている方がまだまだ多いと感じています。しかし、本当の目標はその先にある「活動」と「参加」が向上することです。たとえば、大谷翔平選手は肘の手術の後にリハビリテーションをして腕の機能が回復しました。その結果、試合に出られるようになり(参加)、ピッチャーとして再び活躍できるようになりました(活動)。それらを通じて、大谷選手の最終目標である「野球を楽しむこと」が達成され、生活の質(QOL)が向上したのです。

このように、リハビリテーションはその人が掲げる目標に合わせて計画を立てて行うものです。しかし子どもの場合、大人になるまで、あるいは大人になってからの目標は何なのか、良い人生を送るには今何をしたら良いのかを知るのはとても難しいことです。

たとえば、早産児の中には脳室周囲白質軟化症のために歩くのが難しい子どもがいます。家族はなんとか歩けるようにと熱心にトレーニングをされることが多いのですが、何のために歩きたいのか?が抜け落ちている場合がしばしばあります。「できないこと」にだけ目が向いて、それをなおすことが人生の目標のように思いこんでしまうのです。「アラジンのランプの魔人に3つのお願いができるとしたら、何を願う?」という質問に、「立って、歩いて、走れるようにしてほしい」と答えた子どもがいました。その子は周囲からの呪縛に囚われ、自分らしい夢や希望を持てなくなっていたのです。

子どもに対するリハビリテーションの国際的な指針(Jackman, 2021)には、「本人と家族が目標を選ぶ」、「楽しくてやりたくなるような課題を設定して練習する」、「リハビリテーションは与えるのではなく、本人・家族との共同作業である」ことが明記されています。そして目標は、「本人にとって意味がある」「達成可能な」ものになるように、機能評価を基にして一緒に考えることが重要とされています。

適切な目標を本人が選べるようになるには、何より豊富な体験が必要です。パラリンピックの選手や全盲のピアニストの生き生きとした姿を見れば、好きなことを見つけるのがいかに大切かがわかると思います。また、生活の中での「洗濯物を綺麗にたたんで家族に喜んでもらえるようになる」といった小さな目標でも自信と喜びにつながります。私はよく、「少しでもいいから子どもに家の仕事をさせて、できたらほめてください。」と言います。自分が役に立っているという実感は、子どもにとってかけがえのない心の糧になります。

早産で生まれた子どもは、しばしば運動だけでなく認知やコミュニケーションの面で苦手さがあります。しかし、「できないこと」ばかり意識させられていると、自信や自尊心が育たず、自分を大切にすることができません。ちょっとしたことで心が折れたり、友達と対等につきあえなかったり、常に他人のことを意識したりするようになってしまいます。これはQOLが高い人生とは言えません。自分で選んだ目標を目指して課題を乗り越え、達成感を感じ、自信をつけるという過程が、子どもの成長を促すリハビリテーションそのものだと私は考えています。